東川アウトドアフェスティバル

東川アウトドアフェスティバル

2014年10月31日金曜日

silent

天人峡にある「神様の樹」は樹齢900年を超える桂の樹だ。その樹の前に立ったときには、撮りたいイメージは固まっていた。11月の中旬。明け方気づくと、しんしんと雪が降っている。次の瞬間には何かに急き立てられるように機材を用意し、夢中でクルマを走らせていた。あたりは重い雪が降り積もるバサバサという音、この冬初めての本格的な雪の重さに耐えきれず折れていく枝の音で賑やかだ。さまざまな音の中、静かにたたずむ樹を写し取る。あたりは雪景色。けれど、この樹の幹にはまだ雪がない。ここに立ってやっと、これから始まる長い冬を告げるかのようなこの景色を撮りたかったのだと理解する。自分の中で迷いのないもの。それがいちばん力強いと知らされた。

秋薫る日に

黄色の紅葉は森全体の雰囲気が明るくなる。樹が喜んでいるかのようで、こっちまで嬉しくなる。そんなダケカンバの黄色の中に、ナナカマドが紅色を添え、オガラバナがオレンジ色を載せ、ハイマツが緑でコントラストを高める。10年以上前に高原温泉で見た最高の紅葉。今年は9月頃から同じような状況があった。ウラジロナナカマドもウラシマツツジも、あの時と同じような色抜けを見せていた。しかも大雪山の中でも風が直接当たらず晴れの日が多いとあって、紅葉も品よく鮮やかに色づく場所だ。きっと2014年の高原温泉エリアは最高の色づきになると信じていた。その日を狙って、ありったけの機材を抱えて山を行く。重い機材も、この色合いを残せるなら何の苦労でもない。

僕だけの頂

大雪山で自然観察員のレンジャーをしていた頃。厳冬期のその日は天気も悪く、誰も山に登ろうという人はいなかった。天気予報もよくはない。けれど、きっと晴れているという思いが消えなくて自分ひとりで山頂を目指した。本当は晴れていて欲しいと願っているだけ。もしかしたらダメかもしれないと思いながらも、引き返せなかった。そういう日がある。レンジャーとして接し、慣れきってしまった風景なのに「呼ばれる」としか言いようのない引力に捕らえられることがある。その引力の先にあったのは一面の雲。十勝岳と美瑛岳がちょこんと頭を出しているだけ。あとは見渡す限り、まさに雲の海。誰もいない、自分だけの風景に歓喜の声が止まらなかった。

宇宙(そら)の躍動

晩秋の空気は澄み渡り、星のきらめきが鮮やかになる9月末。足もとの草は秋枯れとなり、旭岳はいよいよ雪化粧のしたくを始める。そんな夜、ロープウェイ乗り場から森の中に踏み入る。カメラを向けるのは星空だが、撮りたかったのは「世界」そのものだ。自分が踏みしめている足もとから頭上の空までが連続していること、さらにその自然と人が繋がっていること。それらすべてをひとつのフレームにおさめたい。しかも大雪山らしい場所から。そう思ったとき、思いついたのはこの場所。あれだけの岩山が、麓には豊かに命をたたえる場所を持つのだ。命の源たる湿原から黒々とした針葉樹越しに山を眺め、その先にある「そら」を見上げた。